読書感想

『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』

マックス・ヴェーバー 著  大塚久雄 訳

岩波文庫

定価 本体860円+税


先日、何気なくテレビの朝のワイドショーを見ていたら、「格差拡大社会はけしからん」といったおしゃべりがなされていた。案外まともなコメントをしているな、と思っていたら、やはりテレビはまともではない。テリー伊藤が「一般庶民も株式投資をして金を儲けるべきだ」とコメントしている。もしも、「株式投資」の部分を「競馬・競輪」に置き換えたら、笑い話ですむのだが…。

昨今は、マネーゲーム(投資・投機)をしない人間は「時代遅れ」との風潮が蔓延している。世の中、大きく狂ってしまったのだろうか…。

本書は今さら解説するまでもなく、プロテスタンティズムの禁欲的倫理が近代資本主義を興隆させた、という論理である。無限の金銭欲・欲望の人は、いつの時代も、どんな国にもいる。金銭欲・欲望が近代資本主義を生んだのではない。禁欲的倫理があってこそ、近代資本主義は興隆したのである。

30年前、大学生だった時は、おそらく「マルクス主義に対抗する最も有名な書」として読んだのだと思う。今回は、「マネーゲーム資本主義に対する根本的批判の書」との感想を持った。

今の世は、「金がすべて」とする金銭欲、限りなき欲望が闊歩している。投機・投資・ギャンブル(要するに、マネーゲーム)とは、得する人よりも損をする人が圧倒的に多いのだが、もてはやされている。近代資本主義の精神、すなわち、禁欲・勤勉がすたれてしまえば、資本主義とは、欲望と欲望がぶつかり合う賭博場となる。金銭欲・欲望ではなく、禁欲・勤勉が、結果としての「お金持ち」を生むのが正常な資本主義である。

世界地図を眺めると、ドイツ・北欧の資本主義はプロテスタンティズムの倫理が色濃く息づいている。ところが、アメリカ資本主義は、金銭欲・欲望のマネーゲーム資本主義に堕落してしまった。マネーゲーム資本主義に美しい未来はないと思うのだが、日本の指導者は、日本を急激にそこへ滑り落ち込ませてしまった。

今一度、本書を読んで、資本主義の精神、すなわち、禁欲・勤勉の尊さを思い出そうではないか。