読書感想

『暴走する世界』

アンソニー・ギデンズ 著  佐藤隆光 訳

ダイヤモンド社

定価 本体1500円+税


著者のギデンズは現代社会学の巨人である。英国首相ブラウン(在任1997〜2007)のブレーンとして知られ、ブラウンの「第三の道」を思想的に支えたことで著名である。私が本書を読んだのは、約十年前であったが、最近、書店で平積みされていたので、なつかしくなって目次を眺めていたら、再度購入・熟読の意欲が湧き上がった。

本書では、現代社会の混迷の根本的原因を「グローバリゼーション」(ITが起爆剤)に置いている。この一大変化によって、四つの分野(リスク、伝統、家族、民主主義)が大変化していく。

「リスク」は「旧来リスク」と「人工リスク」に区分さる。

「伝統」では、「ねつ造された伝統」という言葉が登場する。

「家族」では「子作りとセックスの分離」に向き合う。

「民主主義」は深化する。

そんなことが、グローバリゼーションを基礎に据えて簡便に解き明かされている。

「なるほど」とうなずくだけでなく、読みながら、読者の頭脳は、「あの現象の原因はひょっとすると……」「あの現象の方向性は……」「なるほど、著者の分析はそうかも知れないが、しかし……」と、どんどん脳細胞が活性化する。だから、ペンを片手に持って、ひらめいたことを本の余白に書きとめておくことをお勧めする。ある人が本書を「知の発電所」と評したが、まさに明言である。

本書の原文タイトルは“Runaway World”で、日本語訳が「暴走する世界」となっている。その訳から「破局へ向かう世界」とイメージすべきではない。正しくは、「制御できない世界、とめどもなく変化する世界」とイメージした方がよい。

読者としては、そうは言っても「将来世界を知りたい」のであるが、おそらく、「ぼんやりした将来イメージ」をつかめるのではなかろうか……。

さて、変化する世界で最大級の厄介モノは、各国の原理主義であると思う。原理主義は、過去のある特定時期をあるべき姿とする。もっとも、それは、「ねつ造」された伝統なのだが……。そして、時には、暴力的に押し付けることを正義とする。アメリカのキリスト教原理主義、イスラム原理主義、そして、日本でも巨大な力を持っている。変化する世界にあって、原理主義が猛威をふるうことを、最も心配する。

(2010年1月1日)