読書感想

『食大乱の時代』

大野和興・西沢江美子 著

七つ森書館

定価 本体1800円+税


たまたま、本書を読む直前に、ロバート・ライシュ(米クリントン政権で労働長官を務めた政治経済学者)の『暴走する資本主義』を読んだ。70年代後半から「超資本主義」が始まった。特徴は、消費者(安くて安全な商品を求める)と投資家(利潤を求める)が政策決定権を持ち、公共の利益を追求する市民の力が低落した。そして、輸送・通信の画期的革新、グローバル化、新生産様式、規制緩和などと結び付き、「民主的資本主義」を終焉させ、病理が蔓延する「超資本主義」になってしまった…そんな内容である。

本書は、いわば、「超資本主義」の病理と構造を「食」の観点から追及した現場報告書。

本書に記載された多岐にわたる事例の一つである「農薬入り中国ギョーザ」の事件について、次のような見解を示す。事件の舞台である天洋食品は、たまたま中国資本であったが、基本構造は「開発輸入」である。種子・品種・栽培過程(肥料・農薬)・出荷時の規格・出荷価格・製品化・販売のすべてを日本企業(あるいは日中合弁会社)が取り仕切っている。開発輸入の企画時は、バラ色の話が振り撒かれていた。日本の消費者は安く買える。中国の農民は、金持ち日本が高価格・安定的に買ってくれる。中国の労働者も仕事が増加する。日中の企業も儲かる。みんな、みんな、ハッピー。しかし、そんな都合の良い話は、そうはない。「超資本主義」の病理が、中国農民・各段階の企業労働者・日本消費者のすべてに浸透しつつある。それだけではなく、日本農業の衰退をも招いている。

思うに、ギョーザ事件が、「犯人探し」「再発防止策」「中国バッシング」だけに終わったのでは、事の本質を覆い隠すことになってしまう。「禍、転じて福となす」ためには、「開発輸入の功罪」、「超資本主義の暴走」にまで議論を深めなければならない。

(2008年8月20日 記)