読書感想

『後期高齢者医療制度』

伊藤周平 著

平凡社新書

定価 本体760円+税


今年4月1日から、後期高齢者医療制度が始まった。この制度の本旨は、あっさり言えば、国民(後期高齢者だけではない)の負担増と後期高齢者の受診抑制システムによる国費投入の削減である。

この目標は短期的には成功するが、長期的には疾患の重度化、療養病床の大削減などによって、医療機関の完全不足という事態をもたらす。民間医療保険にたっぷり掛け金を支払える人だけが、十分な医療を受けることができるというアメリカ型の医療体制に向かう。マイケル・ムーア監督の映画『シッコ』の世界である。

しかし、アメリカでは、そうした民間保険会社が牛耳る医療体制が批判されて、オバマ当選の一因となり、再び、「国民皆保険体制」へ政策転換がなされそうだ。にもかかわらず、日本では未だに『シッコ』型医療体制を目指すというのでは、方向はずれの大ボケだ。

政府・与党は「抜本的見直し」を言いながらも、小手先の見直しで、ひたすら高齢者の怒りが収まるのを待っている。未だに、少子高齢化による医療費増大・財政逼迫のため、国民の医療費負担増と受診抑制は、絶対に必要だとする論調が力説されている。もっとも絶対必要とは言わずに、「苦渋の選択」「やむを得ない選択」「子孫に借金を残さないために」などの柔らかく表現されている。

だが、先進諸国のデータ(公的医療費のGDPに占める割合)を眺めるならば、日本の公費負担の水準は先進G7の最低水準なのである。驚くことに、アメリカよりも低いのだ。本当に、アメリカよりも低いのだ。それにもかかわらず、「もっと低く」とは非常に変なのだ。そんな変なことを、この10年間実行してきた。

オバマによってアメリカが「国民皆保険」体制にチェンジすれば、日本も変わるかも知れない。日本人自身の手によって変わるのではなく、アメリカがチェンジすれば日本が変わる・・・情けないなぁ。

(2008年11月30日)