読書感想

『精神科医は腹の底で何を考えているか』

春日武彦 著

幻冬舎新書

定価 本体760円+税


数年前から、精神障害者と関わることが多くなった。社会の諸々の原因によって、精神障害者が激増しているからであろう。どのレベルから精神障害者と呼ぶのかは難しいが、今や、三十人に一人は精神科のお客らしい。当然、藪医者も名医もいる。外科にあっては、衆目の一致する名医が存在するが、精神科に名医は存在するのか?

著者は精神科医である。本書には、百人の精神科医が登場する。

「ろくに診療もせずに処方を出して患者を副作用で苦しめる医師」、

「医療者の発想と患者の発想とのギャップに気付きそれを埋められる医師」、

「他人の事情も分からぬくせに正論ばかりを言い立てる正義感の医師」、

「他人の命運を握り、そのうえで見せかけの優しさを示すことに快感を覚える医師」、

「親しみを込めたつもりで、安易に相手の内面へ踏み込むような質問を発する医師」、

「患者とのささやかな心の交流に人生の豊かさを感知することが出来る医師」、

など……。

そもそも、精神疾患の場合、「おめでとうございます。これで完治しました。頑張って以前の生活に戻って下さい」ということは滅多にない。「ほぼ回復」・「99%回復」が限界。「ほぼ回復」=「単純軽労働が可能」で割り切れるならば、それはよほどドライか鈍感な医師である。人生の輝き、人間の尊厳は、デリケートな「回復しなかった残り1%」が極めて重要になる。

精神科医は、患者及び家族に、「残り1%」を、どう説明するのか。そこが一番の難関であろう。

「華々しい成功、過去の栄光の日々はあきらめて下さい」

「小市民的な平凡・平穏の中に幸福を見出して下さい」

と言うのかしら…。

精神科医は、患者と家族が「残り1%」のため永い歳月を悩むことを承知している。だから、精神科医は、どこか気まずさや不調和な気分を覚えつつ仕事をしている、ということらしい。

(2009年8月10日)