読書感想

『泣いていいんだよ』

青木 悦 著

けやき出版

定価 本体1400円+税


本の縦軸は、著者自身の幼少時の虐待体験である。虐待者が継母ならば、「よくある物語」である。虐待者が実父(あるいは実母)となると、公表することに、大変な葛藤が必ず生じる。

「親を尊敬しなければならない」という道徳律がある。この道徳律は、古今東西、全ての文明・民族に共通する普遍的倫理である。しかし、権力をめぐる歴史を思い起こせば、親が子を殺し、子が親を殺す合戦・暗殺の多さである。あるいは、昔、映画にも演歌にもなった「瞼の母」を思い出してもよいだろう。要するに、道徳律はあっても、現実の世の中では「親が子を殺す」「親が子を虐待する」ことは、実際問題、よくあるのである。

したがって、「親を尊敬しなければならない」と「親から虐待を受けた。とんでもなく悪い親」の矛盾を、なんとか納得できる説明を開発しないと「苦しい心」のままとなる。

時間の経過とともに過去を忘れてしまう。 忘れることは困難であるが、忘れたフリをする。あるいは、無理やり「虐待は、実は愛の鞭」と自分を錯覚に追い込む。

著者は、正直に告白する道を選んだ。どうやら、自分自身の心の旅をすることによって、現代日本の「子育て」「青少年」諸問題の奥底が見渡せるようになったみたいだ。

本の縦軸は自身の虐待体験であるが、横軸には有名・無名の「子育て」「青少年」の事件が解説されている。

マスコミで頻繁に報道される虐待・いじめ・青少年犯罪は「考えられない異常な事件」である。しかし、必ず原因がある。それは、多くの場合、心の奥底に沈殿している「封印された感情」である。自分の心の奥底を旅することによってのみ、「封印された感情」を理解することができるのかも知れない。