読書感想

『世界金融危機』

大野和興・西沢江美子 著

岩波ブックレット

定価 本体480円+税


キーワードは、ファンドや投資ビークルなどの「影の銀行システム」である。その特質は第1に、銀行や証券会社の連結対象外、第2に店頭デリバティブ取引なので取引所を介さず相対取引。デリバティブは金融派生商品と翻訳されるが、イメージは先物信用取引である。第3に国の監督・規制がない。「影の銀行システム」を発展させることが、「貯蓄から投資へ」「金融立国」「規制緩和」の本質である。

その結果、実体経済は世界総貿易量30兆ドル、世界総GDP50兆ドルであるのに対し、金融経済はグローバルマネー150兆ドル、そして、デリバティブ市場はなんと500兆ドルに大膨張。それが破局したのだ。実体経済に影響がないはずがない。

一体どうなるのか。

どうやら、これは通常の不況ではなく、深く長い不況になる予感がする。2〜3年で不況が収束するのか、それとも悪化が10年続くのか…。断言できるのは、米国は仮に覇権を失っても依然として大国であり続けるが、日本はどうなるか。小泉・竹中のブッシュ追従路線を真剣に反省し、政策大転換を成功させなければ、ひとたまりもなく社会崩壊であろう。今年に入って、3月にフェルドスタインNBNR(全米経済研究所)所長は「08年と09年が非常に困難な年になることは間違いない」と断言。4月にジョセフ・スティグリッツ(コロンビア大学教授)は「大恐慌以来、最悪の不況の一つとなるだろう」と述べた。5月にポール・ボルカー元FRB(連邦準備制度理事会)議長は、「究極の大危機」と叫んだ。同月、ソロスは「我々の人生で最悪、最も大変な危機」と語った。しかし、日本政府首脳は、「日本は大丈夫」を連発していた。9月、10月になっても、政府は米国で破綻した「金融立国」のスローガンを降ろさないどころか、竹中平蔵を筆頭に「規制緩和がまだ足りない」とか「構造改革が中途半端」と強弁して、反省のかけらもない。

(2008年10月20日)